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あの日から7日

これを書いたからどうだ、という訳ではないのだけど
私が体験した事や思った事なんかを、書き記しておく。
次にもし万一、どこかで大きな災害があった時に読み返そうと思う。

【7日前】

私の住むところは震度6強。
全てのライフラインが途絶えました。
道路沿いの塀が崩れ、道路の陥没もありました。

幸いな事に住居も家族も被害は大した事はありませんでした。
だけどその時、自分は「被災者」だと思いました。

震源付近の海岸線の被害が酷い、と聞いた時
自分の被害を基準にして
2倍?いや10倍ぐらいだろうか、と想像しました。


【翌日】

被害が酷いと言われる地域に行きました(物見遊山ではありません)。
道中のラジオで状況が刻々と伝えられて来ました。
自分のところの10倍どころではない事が分かってきました。
宮城や岩手の海沿いの町が丸ごと消えているようでした。
そして、向かっている福島県沿岸部も同じ様な状況のようでした。


【被災地】

山を越えその地域に入ると、
屋根瓦が崩れた家が多々あり、地震の爪痕を感じさせましたが
カーディーラーのショールームのガラスが大破していたのを見た以外
派手な壊れ方をした家は特に見当たりませんでした。
車も普通に流れており、混雑した様子もなく
日常とそう変わらないように見えました。

国道の海側には所々の家々と田んぼと林が見えます。
その林の向こうには、いくつかの集落がありました。
大きな港や商店街があるわけでもない
いわゆる「海辺の田舎」の風景が
その向こうに広がっていたはずでした。

車を走らせている道路から見える風景は
林の向こうの集落が既に無くなっているなんて信じられないほど
普段と変わらぬ静かな感じがしました。


【某体育館】

道路から見えない部分の現実
その惨状のほんの一部が、某高校の体育館にありました。

そこには、不透明な袋に収められたご遺体が並べられていました。
数は数えませんでした。数えたくもありませんでした。
こんな事が無かったなら
おそらく私が一生かけても見ないであろうご遺体の数でした。

でもそれは、惨状のほんの上澄みでしかありません
現場で捜索をしている警察や消防の方々が見ている状景は
さらにさらに悲しいものであるに違いないのです。
でもその状景は、
整然と並べられたご遺体を見た私には想像できませんでした。

そして、検索している人達だって、
自分達が見ているものと同じ、あるいはそれ以上の状景が
海岸線沿いにどこまでもどもまでも続いているなんて
きっと、理解の外にあるでしょう。

この時、自分の「被災者」気取りは吹っ飛びました。
そして、災害とは「理解できないもの」と思い知りました。


【緊急放送】

自分でもよくわからない絶望を感じているさ中、町に放送が流れました。

「原子力発電所が爆発したので、車内か室内に入ってください。」

そういえば、この町から20数キロ先に原発がありました。
聞き逃したのかもしれませんが
この町に入るまでの報道では、それに触れたものはなく
すっかりその存在を忘れていました。

「この世の終わり」という単語が頭をよぎり、そして
「少なくとも自分の人生は終わった」と真面目に思いました。

しばらくして、「今のは誤報です」と流れました。
幾分ホッとしましたが、疑念と不安は消えませんでした。
するとまた暫くして、再び最初と同じ放送が流れました。
そして爆発は事実でした。

その事実は事実として捉えるしかないけれど
どう捉えていいのか分からない事実でした。

不思議と町の大きな混乱はなかったようでした。


【お亡くなりになった方々のこと】

TV等で地震の状況を知る皆さんへ

今出てる死者数は、引き上げられ確定したものだけなんです。
それは、実際の死者数のきっと数%にすぎません。

今は、生存者救助が優先されなくてはなりません。
また、余震による津波の恐れで、水没地区にも迂闊に近寄れません。
時がたてば、肉体はその形状を保てなくなります。
すでに波で沖に運ばれてしまった方も大勢いらっしゃるでしょう

原発の周囲の集落も軒並み被害にあっています。
だけど、きっとそこの方々のご遺体は、
捜索してもらえる可能性すら僅かでしょう
万一見つけられたとしても、手をつけてもらえないかもしれません
原発を中心に40km
そこはずっと被害状況の空白地帯になるかもしれません。

そんな方々が
「死者」としてカウントすらされていない方々が、
震災の犠牲になりがら、今なお「生きる者」のために
安息を得ないまま何も言わず犠牲になり続ける方々が
太平洋沿岸部に、今もなお数えきれないほどいらっしゃるのです。


【震災を語る人達】

メディアは
緊迫状況から徐々に収束方向にシフトし始めているようにみえます。
そのうち、普通のバラエティー番組が流れ始め
思い出したように被災地情報が伝えられるだけになるでしょう。

ネットを覗けば
今回の震災について原因や結論等を語り始める人もいます。
阪神淡路と比較して「死者数が“少なかった”のは前回の教訓が」云々と、
尚早すぎる評価を語っていた人もいました。

私的な感情を述べれば、それらは
表に出て来れない死者へ冒涜に思え、何か腹立たしい。
そして、原発がどうなるかわからず不安な状況なので
「まだ、こっちの災害は終わっていないんだよ!」
と言いたい気分にもなります。

でも、そうやって「客観的に語れる人」がいるという事は
今回の震災でもほとんど無事だった人がいるって事で
そんな方たちがいるから
被災者に多くの助けの手が差し伸べられるんだという
希望でもあるような気もします。

私の町を、他県の緊急車両が通り過ぎると
ものすごく有り難く、そして気分が少し落ち着きます。


【おわりに】

今現在、私の住む地域は、着々と復旧が進んでいます。
電気もガスも水道も回復しました。
食料品やガソリンの入手が困難、など不便はありますが
生存の危険はとりあえず感じません。
(原発を除けば)

おそらくそう遠くない時期に、
私の周りは「地震直前」に時間を巻き戻したように
「日常」に戻ると思います。

でも、私が「日常」に戻った後も、
あそこには沢山の「非日常」が残り続けるのでしょう。


いろいろと書き連ねましたが
結論は見つけていませんし、見つからない気がします。

今は「仕方がない」としか言えません。
でも何で「仕方がない」のかは分りません。


とりあえずは
家も何も無くなってしまった被災者の方々、
今生きている方々の「日常」を取り戻す事が先決だと思っています。
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コメント 6

naoko

福島第一の三十km圏内で被災されたのですね。
ともかくご家族がみなご無事だったことはなによりです。
今はご自宅なのでしょうか?
初日からテレビで災害を見ていましたので、すぐに阪神淡路を超える戦後最大の災害であることはわかりました。太平洋岸に広範囲にわたる巨大津波によって死者の数が想像を絶するものになるだろうと言うことも、テレビを熱心に見ていた人ならみな初日から想像がついていたと思います。
原発についてはいまだ予断は許さない状況が続いてはおりますが、自衛隊・消防・東洋電力の方たちなどの決死の作業が、必ず状況を好転させることを信じ、願っております。
そちらは寒波で大変な思いをされているのではないでしょうか。
いろいろと不自由なことも多いでしょうね。
どうか、風邪などお気をつけてお過ごしください。
by naoko (2011-03-19 04:47) 

Judgement

お久しぶりです。
そして、お気遣いありがとうございます。

一号機爆発の際は福島第一の三十km圏内にいましたが
自宅は圏外にはなります。

震災のダメージが深刻だったのに
原発のせいで、さらに深刻化&混乱が続いています。
そして、風評被害も県民としてつらい。
正直なところ、東電が憎いです。

だけど、今も必死でなんとかしようとしている
東電の社員の方は尊敬します。
あと、自衛隊・警察・消防の決死隊の方々も。

色々不自由は続いていますが
家に帰れない被災者の方々に比べれば...と思う日々です。
by Judgement (2011-03-21 22:06) 

トンデモブラウ

お久しぶりです。
Judgementさんが同じ県内に住んでいるとはビックリ。

原発事故の鎮静化に当っている人達は、まさに英雄的行為だと感じています。
一方、TVで「CTスキャンの何分の一の値なので、心配ない。」とか「ただちに健康に影響するレベルではない。」と繰り返されるマントラにはうんざり。
安心させるためとは思いますが、専門家ならもっと定量的に分かりやすくリスクを伝えないと意味がないでしょう。
おかげで個人的な風評被害(家族の過剰反応)に…

うちのが毛布やらタオルやら”普段着ていない”衣類やらを、でっかいダンボールに詰め込んで、避難所へ持って行ったけど個人的なものも受け取ってくれるんだろうか。
持って帰ってはこなかったけど。
”普段着ていない”衣類には、私がコンサートに行った記念の品であるT-シャツやトレーナーが多量に含まれてるのだな…まぁいいんですけど、一度も着ていないので。
楽しかった記憶は消えないと信じてます、頼むに足らない感じの記憶中枢なのが心配。
ニュース映像でロック系の黒いロングT-シャツとか着ているおばあさんが写ると、私の魂は癒されます。
by トンデモブラウ (2011-03-22 08:47) 

cosi

過去のエントリーの記載から、Judgementさんが、福島県や東北に縁のある方のようだったので、気になっておりました。
ご無事で、本当に、良かったです。
お懐かしいnaokoさんも、トンデモブラウさんも、ご無事でなによりです。

私の住むところは、揺れはたいしたことなかったのですが、停電が長かったです。被災地の方々やJudgementさんのところからすると、本当になんでもないレベルでしたが、停電で情報をテレビで得られなかった初日の頃は、大変な目にあっていると、愚かにも感じていました。その後、翌日からテレビを見て、驚くことになりました。初日もラジオは少し聴いていましたが、百聞は一見にしかずですね。


>そんな方々が
>「死者」としてカウントすらされていない方々が、
>震災の犠牲になりがら、今なお「生きる者」のために
>安息を得ないまま何も言わず犠牲になり続ける方々が
>太平洋沿岸部に、今もなお数えきれないほどいらっしゃるのです。

胸にしっかり刻んでおきたいと思います。
Judgementさん、ブログに書いてくださって、ありがとうございます。


以前書きましたが、私は薬の副作用による様々な症状に、悩まされてきました。「自分だけがついていない」と、被害者意識が強かったのですが、今回のことで、そのような被害者意識は、吹っ飛びました。
自分にできることを、愚痴らずに実行していこうと思っています。

テレビで、被災地の方々を拝見していると、不思議なことに、本当はこちらが、励ましたり助けたりしないといけないはずなのに、逆に励まされている気持ちになります。原発のために奮闘されている方々や、救助や支援をされている方々も含めて、日本には、東北には、こんなに素晴らしい方々が、たくさんおられたのだと気付かされ、ありがたい思いになります。

Judgementさん、疲れが出てくる時期だと思うので、睡眠不足などに気をつけて、無理なさらないよう、御体ご自愛ください。
原発が落ち着いて、福島県が(その他の被災した地域ももちろん)、一刻も早く復興するように、願っています。
by cosi (2011-03-22 18:33) 

Judgement

この記事を書いてから、さらに二週間がたちましたね。

原発は絶体絶命的な状況から、ある程度光明は見えて来たようだけど
未だ、不穏なものを撒き散らかしている。


【トンデモブラウさんへ】

今回の震災で、HNしか知らない方々のお住まいの場所が明らかに。
poohさんが仙台というのは分かっていましたが
トンデモブラウさんさんが福島市在住とか
憂鬱亭さんが川俣だったりとか(ソース:kikulog)
なんか、世間ってホント狭いなぁ、と感じました。
とりあえず、皆さんご無事で何より。

トンデモブラウさんはご自身も色々不便かつ不安でしたでしょうに、
避難所への衣類・毛布の提供をなさるとは!
個人的には何もしていない私としては、すごく尊敬。
やっぱ、やるときゃやる人だよ、あんた。

私も「ただちに健康に影響するレベル」ってフレーズはどうもイヤ。
「後からジワジワ効いてきますよ、って事かよ!」
と心の中でつっこんでいます。

「安全」とは言い切れないれど、緊急的な対応を要する程ではない
という慎重な表現なんだろうけどね。

当事者として知りたいのは
「どんなリスクがどの程度で発生するか」ですよね。
その上で、外出を控えるかとか、避難するべきかを判断するわけで。
「リスクゼロ=安全」と言えないなら、危険性の程度を語って欲しいと思う。

CTスキャンやレントゲン、っていうのは
被爆リスクと他の健康リスクを秤にかけた上で実施するもの。
それを指標にされてもねぇ、と思う。

また、「比喩的な説明」ってのは、感覚的につかみやすい反面
説明する側の意図が入り込んじゃう危険もあるよね。

「普段浴びている量の何十倍」と
「レントゲンの何分の一」では印象が変わるわけだし。


【cosiさんへ】

被災してもなお頑張っている方々を見ていると
逆に励まされますよね。

でも、忘れてはいけないのは
頑張っている方々は表舞台に出てきやすいけど
頑張ろうにも頑張れない人も沢山いるということ。

あと、触発されて頑張りすぎちゃだめよ。
「衣食足りて礼節を知る」と孔子は(たぶん)言ったけど
被災者の方々への支援が充実するためには
支援できる可能性のある人達がまず充実してなくてはいけません。
変に無理して共倒れ、となっては仕方ないしね。

被災者の事を気にかかって仕方ない人でも
微笑みを向けて安心させられる程の自分の余裕はつくるべき。

ついでに、「自粛ムード」になるのもどうかと思う。
自粛すれば復興が進むならいいけど、そうでもないでしょうから。
by Judgement (2011-03-31 22:41) 

トンデモブラウ

Judgementさん

福島県なんぞに心理学者の需要があるとは知りませんでした。
てっきり仙台の人かとばかり。

やるときゃやる人なのは私じゃない。
私は単に記念品を手放したダメな人です。
杉様ぱねぇ、かっくいいゼ。
by トンデモブラウ (2011-04-01 12:39) 

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