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「ゲーム脳の恐怖」2 ~β波の説明を添削する~ [ゲーム脳の恐怖]

 「ゲーム脳仮説」において、『β波』が最重要のファクターとなっているはずなんです。
 ですから、この本を読んで「ゲーム脳」という存在を確信するには、どうしてもβ波についての理解が避けられません。それは、読者もそうですし、もちろん著者もそうであるはずです。
 では、その大切なβ波に関する説明を著者自身はどうやっているのでしょう?


≪原文≫
 考えごとをしたり、頭を使うような事をすると、β波が良く出ます。低振幅(小さい波)のβ波は、反回抑制ニューロンによる抑制がかかっていない状態で、脳のニューロンがたくさん、バラバラに活動している状態(非同期化)を表しています。頭皮上から得られるβ波は、その記録部位のニューロンの活動を強く反映しているからです。
≪原文終≫

 さぁ、これを読んだ人がこれからのメインテーマとなるβ波について、どれだけ正確にイメージできるでしょう?
  「活動するニューロンからβ波が放出される」
 といった間違ったイメージを持ってしまった人も少なくないのではないでしょうか。


 というわけで、徹底的に添削してみます。

【最後の「からです」は何?】

 まず、最後の文末が「からです」となっていますが、何の理由を述べているのか理解に苦しみます。
 内容を整理するために、3つの文の主語をβ波に統一して並べてみましょう。

A β波は、考えごとをしたり頭を使うような事をすると良く出る。
B β波は、低振幅の時、脳のニューロンがたくさんバラバラに活動している状態を表す。
C β波は、頭皮上から得られる時、その記録部位のニューロンの活動を強く反映する。

 どうやら、Cであるから、A・Bが推測できる、という感じですね。
 となると、最後に置くのであれば以下のようにすべきでしょう。
 「“これらの事が何故分かるかというと”頭皮上から得られるβ波は、その記録部位のニューロンの活動を強く反映しているからです。」
 ただし、冒頭に持ってくるのが一番分かりやすいと思います。

【頭皮上から得られるβ波?】

 「頭皮上から得られるβ波」と言うと、あたかも「頭皮上以外から得られるβ波」もあるように感じられます。また、頭皮上からβ波というものが独立して検出されるようなイメージも生じてしまいます。

 「β波」というものはあくまで『脳波』の様態の1つです。「β波」がニューロンの活動を反映するのではなく、脳波がニューロンの活動を反映した結果、α波やβ波といった様態を示すのです。
 この文は、この辺の基本が反映されるどころか、むしろ積極的にミスリードさせてしまう内容となっています。

【無意味な強調】

 「よく」、「たくさん」、「強く」と、各文に強調的な表現が出てきます。しかし、どんな時と比較して「たくさん」なのか。どんな指標と比較して「強い」のか?これらについては、語られません。
 比較するものが明確でなければ、これらの形容詞の使用は無意味です。

 私はこれを、「著者の意図」の不適切な混入と捉えます。足りない理解しかないのに、“とにかく大切と思わせたい”という意図のみ先行したために、こういった「無意味な強調」がはびこってしまったのでしょう。
 正直、「無い方が分かりやすいし、ブレ無く理解できます」です。

【まともな文章に直す】

 さて、ここまでの添削を元に、文章を修正してみましょう。

≪原文≫
 考えごとをしたり、頭を使うような事をすると、β波が良く出ます。低振幅(小さい波)のβ波は、反回抑制ニューロンによる抑制がかかっていない状態で、脳のニューロンがたくさん、バラバラに活動している状態(非同期化)を表しています。頭皮上から得られるβ波は、その記録部位のニューロンの活動を強く反映しているからです。
≪原文終≫

≪修正≫
 頭皮上から得られる脳波は、その記録部位のニューロンの活動を反映します。考えごとをしたり、頭を使うような事をすると、脳波にβ波が出ます。低振幅(小さい波)のβ波は、反回抑制ニューロンによる抑制がかかっていない状態で、脳のニューロンがバラバラに活動している状態(非同期化)を表しています。
≪修正終≫

 どうでしょう?後者の方が、β波のイメージがし易くなったと思いませんか?
 実際は、もう少し加筆・修正を加えたいところですが、少なくとも脳波研究の知見に照らし合わせた場合、「精度は低いが概ね合っている」理解ができるはずです。

【問題点】

 ここで問題にしたいのは、「著者は文章が下手」といった単純な話ではありません。
 確かに、1番で指摘した文章構成の問題や、全体的な舌足らず感は、文章の巧拙の範疇に入る問題ですが、2番で指摘したような基本とは異なる表現や、3番で指摘したような余分な情報の混入等は「文章」という技術の問題ではなく、文章を書く以前に著者が持っていた「理解」に関わる問題と考えられます。

 何より、そのような問題点が、「ゲーム脳」に関する重大なファクターの、しかもその重大さに相応しくない短い文章の中に見出されてしまう、という事が最も本質的な問題と言えます。

 もし仮に、著者が「脳波の専門家」であり、読者に「β波を明確に理解して欲しい」と考えていたのであれば、以下で示す3項目は真っ先に排除されるべきものです。
A 情報が整理されていない
B ミスリードを誘発する表現を使用する
C 意味の無い強調を多用する

 しかし、それがなされないと言う事は、以下で示す事を十分に示唆するものと考えられます。
A 著者自身が理解できていないから、情報を整理できない
B 著者自身がミスリードしているから、ミスリードを誘発する表現を使用する
C 著者自身が根拠の無い思い込みを強く持っているから、意味の無い強調を多用する

 前に述べた『「脳トリビア」では多弁で、「脳波」の話になると「専門的」と言って寡黙になる』事と併せ考えると、「ゲーム脳」の本論に入る前の導入部ですでに、この人による「脳波」の「β波」を基準にした理論というものがかなり怪しいものである事が分かってしまいます。
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